こんにちは、担当Sです。
運転業務や夜勤業務の安全対策というと、まずは運行管理、点呼、教育、シフト設計、ルール整備。ここに力を入れるのは当然です。
ですが、現場に近いところで見ていると、もうひとつ無視できないテーマがあります。「眠気を起こす健康リスクを、会社としてどう扱うか」です。
特に睡眠時無呼吸症候群、いわゆるSASは、本人が気づかないまま日中の眠気や集中力低下を引き起こし、運転や夜勤の現場で事故・ヒヤリハット・判断ミスの土台になり得ます。
だからこそ、これは個人の体調管理の話で終わらせず、会社の安全管理の中に組み込んで考えるべきテーマだと私は思っています。
国土交通省のセミナー掲載資料「プロドライバーにおける睡眠時無呼吸症候群スクリーニングの重要性」では、SASスクリーニングの重要性が示されています。
また、日中の過度な眠気や集中力低下、慢性疲労は、SASの代表的な問題として整理されています。
つまり運転業務や夜勤業務では、SAS対策は福利厚生の側面だけでなく、業務リスク対策としても重要性が高まっています。
この記事では、検査や治療の細かい医療フローを説明するのではなく、企業がSASスクリーニングをどう導入し、どう社内に定着させるかという視点で整理します。
既存の健診後フォローを補強したい企業さまにも、新たに高リスク職種対策を始めたい企業さまにも役立つよう、導入法に絞ってお話しします。
なぜ運転・夜勤ではSAS対策が安全管理の穴となるのか
「眠い人が危ない」のではなく、「眠気を自覚しにくい人が危ない」
運転業務で本当に怖いのは、「今日はかなり眠いです」と自分で申告できる人だけではありません。
むしろ危ないのは、疲れていることに慣れてしまって、眠気を眠気として認識しにくくなっているケースです。
SASでは、本人の自覚だけでは把握しにくいケースもあります。
運転業務では、この“自覚しにくい眠気”が危険です。
数秒の反応遅れ、ブレーキの踏み込みの遅れ、単調作業中の注意力低下。こうした小さなズレが、そのまま事故や重大インシデントにつながる職種では、健康管理の中に睡眠の視点を入れないと、どうしても安全対策に穴が残ります。
だからスクリーニングは、眠そうな人を見つけるためではなく、見えにくいリスクを仕組みで拾うために必要です。
夜勤・交代勤務では、SASリスクが埋もれやすい

夜勤や交代勤務では、SASリスクは埋もれやすくなります。
その理由は、眠気や疲労感が「勤務の特性だから仕方ない」と扱われやすいため
その“仕方ない不調”の中にSASが紛れてしまうと、リスクが見えにくくなってしまうからです。
夜勤者の不調を勤務負荷だけで説明しきらないこと。ここが企業の分かれ目です。
とくに、眠気、朝のだるさ、いびき、夜間頻尿、高血圧、肥満などが重なっているなら、単なる疲労管理ではなく、SASの視点を持つ価値があります。
SASスクリーニング導入で最初に決めるべきこと
全社員一律ではなく、「高リスク職種から始める」
導入を考えるときに、最初から全社員を対象にしようとすると、制度は立派でも運用が重くなりやすいです。
実務としておすすめなのは、まず高リスク職種から始めることです。
たとえば、社用車や営業車を日常的に運転する職種、物流・輸送・送迎などの運転業務、夜勤や交代勤務のある現場、単独作業や監視業務など、眠気や集中力低下が事故・ミスに直結しやすい部署から着手するほうが、社内の理解も得やすくなります。
SAS対策は「全員に同じことをする施策」というより、業務リスクに応じて優先順位をつける施策として設計するほうが現実的です。
「誰を対象にするか」を健診数値だけで決めない
対象者選定でありがちなのが、BMIや血圧などの健診数値だけで絞ろうとすることです。
もちろんそれも重要ですが、それだけでは足りません。
SASは、いびき、日中の眠気、朝の頭痛、夜間頻尿、集中力低下といった症状や、現場でのヒヤリハット情報と合わせて見たほうが、実務上は精度が上がります。
つまり、企業として持つべき視点は、健診データだけでなく、面談内容や業務中の様子も含めて確認することです。
高血圧や肥満があって、さらに「最近眠そう」「居眠りまではいかないが反応が鈍い」「夜勤明けのパフォーマンス低下が目立つ」といった情報が重なるなら、SASを疑うきっかけとして十分です。
対象者選定は、医療診断ではなく、受診勧奨の優先順位づけと考えると進めやすくなります。
導入を成功させるカギは、「検査の説明」より「社内体制づくり」です
人事だけで回そうとしない
SASスクリーニング導入が止まりやすい理由のひとつは、人事部門だけで抱え込もうとすることです。
ですが実際には、これは人事単独で完結するテーマではありません。
対象者の抽出には健診情報が関わり、業務リスクの把握には現場管理者の視点が必要で、受診勧奨の妥当性には産業医や保健師の関与が重要になります。
だから導入時には、人事・安全管理部門・産業保健・現場管理者のどこが何を持つのかを先に整理しておくことが大切です。
SAS対策は医療そのものではありませんが、医療につなぐまでの設計は会社側の仕事です。ここを曖昧にすると、対象者は出せても、その後の受診勧奨やフォローで止まりやすくなります。
「やりっぱなし」にしない運用線を作る
制度導入でいちばんもったいないのは、スクリーニングを実施しただけで終わることです。
リスクが見つかった従業員が、その後に医療機関につながらない。あるいは受診はしたが、検査まで進まない。ここで離脱が起きると、せっかくの導入が成果につながりません。
企業に必要なのは診断ではなく、“止まらない導線”を持つことです。
スクリーニングは入口であって、目的ではありません。その先まで見据えて設計してこそ、安全対策として意味を持ちます。
現場に乗せやすいSASスクリーニング導入ステップ
STEP1 高リスク業務を洗い出す
最初のステップは、対象職種を明確にすることです。
運転業務、夜勤、交代勤務、長時間拘束、単独作業、機械操作、監視業務。こうした業務のうち、眠気や判断ミスが重大事故や業務停止につながるところを洗い出します。
ここは“誰が病気か”を見るのではなく、どの業務で睡眠リスクを見逃せないかを整理するステップです。
STEP2 抽出基準を決める
次に、健診データ、問診、面談内容、現場情報のどこまでをスクリーニング対象抽出に使うかを決めます。
いびき、日中の眠気、朝の頭痛、夜間頻尿、高血圧、肥満、集中力低下、ヒヤリハットなど、複数のサインを組み合わせて見る運用が現実的です。
ここで重要なのは、誰が見てもある程度同じ判断になる基準にしておくことです。
STEP3 受けやすい検査導線を置く
対象者を決めても、受けにくければ進みません。企業としては、受診勧奨だけでなく、従業員が動きやすい形まで用意できるかが重要です。
在宅で実施できる睡眠検査や、受診後の案内がシンプルな導線があると、忙しい現場でも動きやすくなります。
制度は作ったけれど受けてもらえない、という状態を防ぐには、この「受けやすさ」の設計が欠かせません。
STEP4 医療につなぐルールを作る
在宅検査や医療機関での検査は、あくまで医師の判断のもとで進みます。
企業側で整えるべきなのは、リスクが見えたあとにどこへ相談し、どの段階までフォローするかという社内ルールです。
「対象者を抽出しました」で終わらせず、そのあとに誰が受診勧奨し、結果的にどこまで確認するのか。ここを決めておくと、スクリーニングが実際の安全対策として機能しやすくなります。
STEP5 継続支援まで見る
必要な人が治療につながったあと、そこで終わりにしないことも重要です。
企業として治療内容そのものに踏み込む必要はありませんが、本人同意のもとで、必要な就業配慮や安全配慮につなげられる体制を整理しておくことが重要です。
導入時に止まりやすい3つの壁
本人が受けたがらない
SASスクリーニングは、どうしても「病気扱いされるのでは」「業務から外されるのでは」と警戒されやすいテーマです。
だからこそ導入時は、管理のためではなく、安全に働き続けるための仕組みだと丁寧に伝える必要があります。
最初から「治療」や「就業制限」を前面に出すより、「まず状態を確認する」「必要なら医療につなぐ」という順番で説明したほうが受け入れられやすいです。
管理職の温度差が大きい
現場管理者によって、睡眠リスクへの感度はかなり違います。「そこまで会社がやるのか」と感じる人もいれば、「前から必要だと思っていた」という人もいます。
だから導入時は、制度説明より先に、なぜその職種で必要なのかを管理職に共有することが重要です。
特に運転や夜勤では、眠気や集中力低下がそのまま事故やヒヤリハットにつながりやすい。この業務特性への理解があるかどうかで、制度の定着は大きく変わります。
個人情報の扱いが曖昧
もうひとつ重要なのが、健康情報の扱いです。SAS対策は、企業が医療情報を詳しく持つことが目的ではありません。
必要なのは、対象抽出、受診勧奨、就業配慮、安全配慮のために、どこまで会社が把握し、どこから先は医療側に委ねるかを明確にすることです。
この線引きが曖昧だと、社内の理解も本人の納得も得にくくなります。
まとめ
今回の記事でお伝えしたかったのは、SAS対策は「健診で拾って受診させる話」だけではない、ということです。
運転業務や夜勤業務のように、眠気や集中力低下が重大リスクに直結する職種では、SASスクリーニングを会社の安全管理の仕組みにどう組み込むかが重要になります。
その意味で、今回の主役は検査の種類ではありません。
主役は、どの職種から始めるか、誰を対象にするか、社内で誰が持つか、どこで止まりやすいかという導入設計です。
ここが整理できると、SAS対策は単発施策ではなく、現場で回る仕組みになります。
運転業務・夜勤業務のリスク対策を一段引き上げたい企業さまは、まずは自社の中で「眠気リスクを本人任せにしていないか」を見直すところから始めてみてください。
そこから先に、スクリーニング導線をどう置くかを考える。順番としては、それがいちばん強い進め方です。
SASスクリーニングの導入設計をご検討中の企業さまへ
弊社では、在宅検査の運用支援に加え、高リスク職種に適した導入設計や社内定着まで一貫して支援しています。
「自社では何から手をつけるべきか整理したい」
「安全対策として実際に機能する仕組みにしたい」
といった段階でも問題ありません。
参考文献
- 日本呼吸器学会(市民向け解説)
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-05.html - 厚生労働省 e-ヘルスネット
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-026.html - 厚生労働省 睡眠ガイド2023
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf - 日本人間ドック学会誌(2017)
「当センターでの睡眠時無呼吸症候群スクリーニング検査における結果報告」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ningendock/32/4/32_632/_article/-char/ja - 国土交通省
「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03manual/data/sas_manual.pdf - 国土交通省「プロドライバーの健康管理・労務管理の向上による事故防止に関するセミナー」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/health/r4_seminar.html
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