こんにちは、担当Sです。
GW中に起きたバス事故に関する報道をきっかけに、運転に関わる人の体調管理や安全配慮への関心がより高まっています。
企業の現場でも、車両や運行の管理だけでなく、日中の眠気や集中力低下といった”健康面のサイン”をどう拾うかが重要なテーマです。
特に、高血圧や肥満に加えて眠気がある場合は、SAS(睡眠時無呼吸症候群)の罹患を視野に入れる必要があります。
本記事では、企業健診でSASを見逃さず、検査からCPAP治療につなぐ実務フローを整理します。
SASを企業健診で見逃してはいけない理由
SASは、睡眠中に無呼吸や低呼吸を繰り返すことで、日中の強い眠気や集中力低下を引き起こす疾患です。
日本国内の潜在患者数は約940万人と推定される一方、CPAP治療を受けているのは約70万人程度とされています。
つまり企業の立場で見ると、まだ見つかっていない、あるいは治療につながっていない従業員が一定数いる可能性があるということです。
SAS対策は労働災害や交通事故のリスク抑制、高血圧・心疾患・糖尿病などの健康リスク対策、さらに健康経営や人的資本経営にも関わるテーマとして整理されています。特に運輸、建設、製造など、安全配慮が重い業種では、眠気や注意力低下を“本人の問題”で片づけるわけにはいきません。
健診の結果を、現場の安全と医療につなぐことが重要です。
健診で見えるのは、病名ではなく“サイン”です
企業健診でいきなりSASの診断はできません。ですが、高血圧、肥満、糖尿病、循環器疾患、夜間頻尿、日中の眠気といったサインは拾えます。
健診で見るべきなのは「SASかどうか」ではなく、「SASを疑って次につなぐべきかどうか」です。
“元気そうに見える”人ほど、見逃しやすいことがあります
SASは、本人が強い自覚症状を訴えないまま進行することがあります。
そのため、健診結果だけでなく、居眠り、集中力低下、ヒヤリハット、パフォーマンス低下などの現場情報も重要です。
産業医・人事・管理職が情報を分断して持つと見逃しやすいため、企業内でつなぐ視点が欠かせません。

なぜ、SASは健診で拾いきれないのか
現在の企業健診(定期健康診断)には、睡眠やSASに関する直接的な検査項目は含まれていません。
そのため、SASは「健診で異常が出ているのに見逃される疾患」の一つになりやすい構造があります。
一方で、人間ドック領域や研究では、健診データとSASの関連が指摘されており、スクリーニング検査の有用性も報告されています。
実際に、簡易PSGを用いた研究では対象者の約60%が精査対象となり、治療導入例も多く確認されています。
また、運輸業界では国のマニュアルにおいてSASスクリーニングが推奨検査として位置づけられており、事故予防の観点からは「見つけに行くこと」が前提になっています。
ただし、医学的には、無症状の一般集団に対する一律スクリーニングについてはエビデンスが十分とは言えず、現時点では慎重な立場もあります。
そのため現実的な対応としては、
健診データや問診からリスクの高い従業員を拾い上げ、検査につなぐ
というアプローチが重要になります。
企業健診のあとに、どんな従業員をSAS検査へつなぐべきか
健診後に注目したいのは、単発の数値ではなく“眠気”と“生活習慣病リスク”の組み合わせです。
たとえば、高血圧や肥満傾向があり、さらに日中の眠気や朝のだるさ、いびきの指摘がある場合は、SASの相談につなげる意味があります。
健診項目だけでなく、面談情報も合わせて見る
産業保健の現場では、健診データと問診・面談情報を合わせて確認することが大切です。
たとえば、血圧やBMIだけでは決め手が弱くても、「最近眠気が強い」「家族からいびきを指摘されている」「夜中に何度も起きる」という情報が加わると、受診勧奨の精度は上がります。
安全配慮が重い職種では、受診勧奨の優先度を上げる
運輸・運送・建設・製造業などでは、眠気や集中力低下がそのまま事故リスクにつながります。
これらの業種でのSAS対策は労災防止の観点で有効です。業種特性を踏まえると、健診で気になるサインが出た従業員は、より早めに受診勧奨をかけるべきです。
検査からCPAP治療につなげる基本フロー
企業が診断や治療をするわけではありませんが、どういう流れで医療につながるかを理解していないと、受診勧奨が空回りします。
問診 → 簡易検査(PG) → 精密検査(PSG) → CPAP治療という基本的なフローを確認していきましょう。
1. 健診・面談でSAS疑いを拾う
最初の入口は、企業健診や産業医面談です。
高血圧、肥満、糖尿病、循環器疾患、夜間頻尿、日中の眠気、いびきなど、SASと関連しやすい所見や訴えを拾います。
ここで大切なのは、「眠いなら寝不足だろう」で終わらせず、睡眠障害の可能性を含めて受診につなぐことです。
2. まずはPG検査で入口を作る
医療機関では、SASが疑われる患者に対して、まず簡易検査(PG)を行います。(どの検査を行うかは医療機関の判断となります)
企業としてここで重要なのは、従業員が検査の一歩目を踏み出しやすい医療導線があるかどうかです。
3. 必要に応じてPSG検査で詳しく確認する
PGでAHI(RDI)30回/時以上の場合はCPAP治療の対象になり得ます。
一方で30回/時未満の場合は精密検査(PSG)で再評価し、PSGでAHI 15回/時以上ならCPAP治療が検討されます。
つまり、PGはスクリーニングの役割、PSGは治療判断をより確かにする役割ということです。
4. CPAP治療へつなげる
治療が必要と判断された場合は、CPAP治療へ進みます。
CPAPは最も一般的な治療法であり、睡眠中に鼻マスクから空気を送り、上気道の閉塞を防ぐ方法です。期待される効果として、いびきや無呼吸の軽減、睡眠の質改善、日中の眠気の軽減、夜間頻尿の軽減、血圧低下、循環器合併症の予防などが挙げられています。
PG検査・PSG検査・CPAP治療の役割分担を、企業はどう理解すべきか
企業側がこの流れを理解しておくと、受診勧奨の説明がしやすくなります。
ポイントはシンプルです。PGは入口、PSGは確認、CPAPは治療です。
企業は医療判断を代行する必要はありませんが、「健診で気になる所見があるなら、まず検査の入口までつなぐ」という役割は明確に持つべきです。
PGは“まず動くため”の検査
SAS対策が進まない企業では、「本当に受診が必要かわからないから様子見」ということがよく起きます。
ですが、PGという入口があることで、その後の検査・治療に進みやすくなります。
健診後の受診勧奨は、従業員をいきなり大がかりな治療に向かわせるものではなく、まずは状態を見に行くための一歩だと伝えることが大切です。
PSGは“治療につなぐため”の検査
PSGは、睡眠の深さや質も含めて詳しく確認する精密検査です。企業としては、この段階で初めて「治療が必要かどうか」がより具体的になります。
だからこそ、健診後の導線は「受診してください」で終わりではなく、必要なら次の検査、さらに必要なら治療へ進める医療機関につながるかまで意識する必要があります。
CPAPは“始めること”より“続けること”が重要
CPAP治療の効果を得るためには、継続使用がとても重要です。「導入したら終わり」ではなく「継続できる体制」をつくることが大切なポイントです。
企業が整えたいのは、“受診勧奨”より一歩先の連携です
ここが、企業のSAS対策で差が出るポイントです。
受診勧奨自体は多くの企業が実施しています。しかし、実務上の課題は、その先の「離脱」です。
健診で拾う → 医療機関へ → 検査へ → 必要なら治療へ
この流れを途切れさせない設計こそが、企業のSAS対策の実効性を左右するのです。
医療機関との連携で、“健診後の放置”を防ぐ
健診で引っかかったのに受診しない、受診したけれど検査まで進まない、検査したけれど治療が続かない。企業の実務では、この離脱が一番もったいないです。
医療機関との連携や、検査から治療まで見通せる導線があると、健診後の支援は格段に回しやすくなります。
遠隔モニタリングやオンライン確認が、継続支援を後押しする
CPAP使用状況や治療データをオンラインで確認できる仕組みも重要です。通院負担や継続負担が軽い医療導線は、従業員支援の現実性を高めます。
参考動画:企業でのSAS対策を継続運用するイメージ
まとめ
企業健診でSASを見逃さないために重要なのは、特別な検査ではなく、サインに気づく視点です。
高血圧、肥満、日中の眠気、いびき、集中力低下といった情報から
「睡眠の問題かもしれない」と一歩踏み込めるかどうかです。
そして、PG検査→PSG検査→CPAP治療という流れを理解し、医療へつなぐことです。
健診を“結果通知”で終わらせず、“治療につながる入口”に変える。これが、企業のSAS対策の実務です。
まずは、自社の健診後フローでSAS疑いが埋もれていないか確認してみてください
産業医、人事、衛生委員会、現場管理者のあいだで、SAS疑いをどの段階で拾い、どこに受診勧奨し、検査から治療までどうつなぐか。そこが整理されるだけで、企業健診の活かし方は大きく変わります。
安全配慮と健康管理の両面から、健診後の導線を一度棚卸ししてみることをおすすめします。
参考文献
- 日本呼吸器学会(市民向け解説)
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-05.html - 厚生労働省 e-ヘルスネット
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-026.html - 厚生労働省 睡眠ガイド2023
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf - 日本人間ドック学会誌(2017)
「当センターでの睡眠時無呼吸症候群スクリーニング検査における結果報告」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ningendock/32/4/32_632/_article/-char/ja - 国土交通省
「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03manual/data/sas_manual.pdf
この記事をSHAREする
